相原正明の個人オフィスのホームページです

2006年4月〜2007年3月

メールマガジン 第17号〜第27号

第27号

拝啓 今朝は名残の雪に見とれつつ、季節の神の粋な舞台運びを楽しんでおりますが、いかがお過ごしですか。
メルマガ第27号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第27号(H19.3.31)
女性活用は企業業績向上の鍵

前沢温泉舞鶴の湯の梅

奥州市では、2月16日の臨時議会で、市総合計画基本構想を可決したが、その中で、目指すべき都市像を「歴史息づく健康文化都市 産業の力みなぎる副県都」としている。
「副県都」については、かって、このメルマガでも取り上げている(H17.9.15 第8号)。この副県都を構築するための戦略的プロジェクトとして、「子育て環境ナンバーワンプロジェクト」、「知識集積型都市・高度教育都市構築プロジェクト」、「世界文化遺産を核とした文化交流・観光プロジェクト」の3つを用意している。

今回のテーマは、「子育て環境ナンバーワンプロジェクト」にかかわるものである。
この3月には、「子育て環境ナンバーワンプラン(奥州市次世代育成支援行動計画)」を策定したが、その中の特色の一つとして、「企業における子育て支援の促進」をうたっている。
3月26日付け地元INN新聞の一面トップに「子育て支援ー優良企業を表彰へ」という見出しが踊った。記事によると、「奥州市は、企業の子育て支援の取り組みを促進するため、従業員の子育てを積極的に支援している事業所を優良事業所として認定し、表彰する。」、「同市では今回の優良事業所の認定、表彰を通して、『子育て環境ナンバーワンプラン』を推進するとともに、子供を生んでも仕事を続け、仕事と家庭が両立できる環境づくりを企業に働き掛けていく考え。」
実は、この考えのヒントになったある雑誌の記事がある。

昨年6月、東京駅八重洲口のブックセンターでいつものように時間調整していたとき、「日経ウーマン(6月号)」の表紙の「女性が働きやすい会社ベスト100」の見出しが目に入った。

内容を見ると、「女性たちがやりがいのある仕事ができ、なおかつ働き続けられる会社とは一体どんなところなのだろうか。『やりがい』と『働き続けやすさ』を兼ね備えた『女性が働きやすい会社』を探すべく、日経WOMANでは『企業の女性活用度ランキング調査』を実施した。
その結果からは、ひとつの時代の変化を見ることができる。88年の創刊号でも同様の調査をしたが、その時は、ベスト10のうち何と7社が流通業(百貨店・スーパー)だった。しかし、それから18年たった今回の調査では、シャープや松下電器産業や帝人など日本を代表する主要メーカーがランクインしている。」
どうやら、女性活用を経営戦略の柱に位置づける会社が伸びているようだ。そのキーワードとして「ダイバーシティ(多様性)」があるとのこと。これは、性差や人種など個々の違いを認め、多様性を生かすことで組織の活性化を図り、市場の多様化や経済のグローバル化に対応する人事・経営戦略のことである。「その多様性の切り口の一つが女性である。これまで、育児や家事の責任を負うことが多かった女性は、ビジネス上ではそれがハンディとなっていた。しかし、ダイバーシティの観点なら、男性と違う経験は、プラスになり、ビジネスのパフォーマンス向上につながるとみなされる。」(同誌)

ところで、こうした視点での上位企業が、仕事と育児の両立支援のために導入しているプログラムは、上位10社(①松下電器産業 ②帝人 ③アサヒビール ④シャープ ④ソニー ⑥NTTドコモ ⑦キャノン⑦三洋電機 ⑦日本郵船 ⑩東芝)の平均で、次の通りとなっている。(同誌)
・復帰後の勤務時間の短縮 61.8% ・法定を超えた育休の延長 39.2% ・産休・育休中も現場長が定期的な連絡 36.0% ・法定を超えた子の看護休暇 31.5% ・法定を超えた産休中の所得保障 28.2% ・法定を超えた出産一時金 25.3% ・保育費・ベビーシッター費援助 22.0% ・職場復帰プログラムの実施 19.4% ・産休・育休中もイントラネットへのアクセスが可能 16.4% ・育児手当の支給 11.8% ・法定を超えた育休中の所得保障 9.4% ・在宅勤務制度 5.4% ・企業内保育施設 4.3%

日本の企業のうち、中小企業(製造業等では、従業員数300人以下)は、企業数で99.7%、雇用数で66.9%であるが、上述したような”優良大企業”の取り組みは、中小企業者からみると、ため息の出るものであるに違いない。
しかし、企業業績の向上戦略からも、一歩でも二歩でも近づけていただきたい。

ところで、わが市役所は、職員数1400人余のいわば大企業であるが、最近、職員提案を実施したところ、ある女子職員から次の意見が寄せられた。

「人員削減もいいのだが、少子化対策を考え、妊娠・出産をする者が働きやすい環境を整えてほしい。私自身、子供は沢山ほしいのだが、夜勤・休祝日勤務が増えること(注:本人が休むことで同僚などの勤務が増えること)の辛さが身にしみているので簡単にはいかない。そこで、産前産後休暇や育児休暇を取得する職員がいる場合、代替職員(臨時職員など)を配置する等を考慮してほしい。少子化対策になると思うし、少なくとも私自身は、この点を改善して頂ければ、すぐにでも妊娠したい。」

まず隗(かい)より始めよ(事を起こすには、まず自分自身から着手せよの意)である。
「子育てするなら奥州市で ! 」が、1日も早く定着するよう、官民上げて取り組みたい。

日経WOMANを開いているうちに、イタリア・ルネッサンス期の画家ボッティチェリ(1444-1510)の名画「春」が思い浮かんできました。

あの絵の如く、明るく、伸びやかに過ごされるようお祈りいたします。

小園亭主 敬白

第26号

拝啓 2月20日の合併一周年記念式典では、会場のホテルの窓辺に、辛夷(こぶし)のふさふさした大きな芽が春風に揺れていました。その後お変わりありませんか。
メルマガ第26号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第26号(H19.2.28)
理 外 の 理

力強く芽吹く梅の木

遅まきながら、正月明けに「今年度新書(新潮新書)NO.1ー220万部突破ー」という帯のついた本を買った。藤原正彦氏(お茶の水女子大学理学部教授・作家新田次郎氏の次男・1943年生)の手になるものであるが、”明快かつ痛快”に尽きるもので、評判を呼んだのも分かる。著者いわく、「いちばん身近で見ている女房に言わせると、私の話の半分は誤りと勘違い、残りの半分は、誇張と大風呂敷とのことです。」
この本の第2章「『論理』だけでは世界が破綻する」では、「論理を徹底すれば、問題が解決できる」という考えは、誤りである。『美しい論理』には、①論理の限界、②最も重要なことは論理で説明できない、③論理には出発点が必要、④論理は長くなりえない、という四つの欠陥がある。」と楽しく語りかける。
本の紹介は、この程度にして、私は、読み進むうちに、「理外の理」という言葉を思い出した。
松下幸之助の「指導者の条件」という本の中に出てきたものである。
中国の戦国時代、趙の国に趙奢(ちょうしゃ)という将軍がいた。ある時、秦の軍隊が趙の一地方に侵攻し、そこを包囲したので、趙の王は、将軍たちに「あそこを救えるか」と尋ねた。
将軍みんなが、「あの地方までは、道も遠く、また危険な土地ですから難しいでしょう。」と答えた。
ところが、趙奢は、「道が遠く、険阻だからそこで戦うのは、2匹の鼠が穴の中で争うようなもので、勇敢な方が勝つでしょう。」と言った。そこで、趙王が彼を派遣したところ、趙奢は自分の言葉どおり、秦軍を打ち破り、その地方を救ったという。
松下幸之助いわく、「学問もあり、理論的にものを見る人ほど、ともすれば、それにとらわれて理外の理を軽視しがちである。指導者は、学問・理論だけにとらわれず、より高い理外の理というものを、はっきりと掴むように心したいものだと思う。」

次に、私の愛読書の一つ、司馬遼太郎の「坂の上の雲」(注:日露戦争がテーマ)から、関連しそうな(?)話題を2題。

まず、「名将の条件」。
「東郷平八郎(日露戦争で活躍した軍人。1847-1934)は、若い頃から運のついた男ですから」とは、山本権兵衛(海軍大臣・首相。1852-1933)が明治天皇に対し、東郷を艦隊の総帥に選んだ理由として述べた言葉だが、名将ということの絶対の要件は、才能や統率能力以上に、彼が敵よりも幸運に恵まれるということであった。
悲運の名将というのは、ありえず、名将は必ず幸運であらねばならなかった。

二つ目は、「万策尽きた場合」。
伊庭(心形刀(しんぎょうとう)流宗家)は、「心形刀流の極意を教えておこう」と言って、剣の上での実例をいくつか挙げ、「剣に限らず、物事には万策尽きて窮地に追い込まれることがある。その時は、瞬息に積極的行動に出よ。無茶でもなんでもいい。捨て身の行動に出るのである。これが、わが流儀の極意である。」と言った。

私には、このことで、鮮明に思い出す場面がある。
それは、テレビ映画「コンバット」(ノルマンディー上陸作戦以降のヨーロッパ戦線を舞台に、アメリカ陸軍歩兵連隊の視点から、戦場での人間の様々な心理を描いた作品)の一場面である。
サンダース軍曹(ヴィック・モロー)とその部下がある部屋の中で敵に包囲され、絶対絶命となった時、一人の古参の部下が、わざと急に倒れこんで呻き始め、驚いた敵の心理の隙を突いて、形勢を逆転させたシーンである。
また、子供時代の思い出で恐縮であるが、小学校3、4年生の頃、水泳帰りに自転車のサドルの前に乗せたもらっていたところ、運転していた大人が操縦のバランスを崩し、1m程下の田んぼに転落必死という状態となった。私が、泥田に埋まるのを覚悟しつつ、子供の力ながら全力で自転車のハンドルに逆方向の力を加えたところ、運転の大人が「おっ!」と驚くように声を出すと同時に、バランスを取戻し、転落を免れた。遠い記憶ながら、このことも、併せて思い出す。

「理外の理」の話しが、やや脱線気味となりましたが、ご笑納頂ければ幸いです。

一斉に芽吹く木々のパワーのように、お元気でご活躍ください。

小園亭主 敬白

第25号

拝啓 新年をいかがお過ごしですか。私は、新春のテレビ番組で、「副県都 談ずるごとし初雀」の拙句を披露してみました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
メルマガ第25号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第25号(H19.1.28)
NPM(ニューパブリックマネジメント)

岩手めんこいTV千葉絢子アナと対談

今回は、私の市長選マニフェスト政策3を取り上げたいと思います。
政策3 N P M (ニューパブリックマネジメント)の推進

[目標] 住民のニーズを反映した行政改革を強力に推進します。
[方法] 行政改革の手法であるNPM(ニューパブリックマネジメントと呼び、成果主義、顧客主義などを中心とする考え方)推進計画を定め、全庁をあげて取り組みます。
[期限] 1年以内
[財源] 1,000千円(職員研修経費など)

NPMとは、民間企業における経営理念、手法、成功事例をできる限り行政分野に導入することで、効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すものである。
1980年代の財政赤字の拡大等を背景にイギリスやニュージーランドなどで取り組まれ、1990年代に入って欧米諸国で導入が進み、近年になって日本でも導入する自治体が増えている。

NPMの特徴として次の4点が上げられる(静岡県富士宮市資料から)。
(1)顧客志向への転換
市民を行政サービスの顧客とみて、顧客満足度を重視したサービスに転換する。
富士宮市では、平成17年度にパブリックコメント制度を実施し、18年度には行政評価シス テムを稼動させている。
(2)成果志向への転換
数値目標の設定と行政評価の実施。なお、同市における取り組みは、(1)に同じ。
(3)市場機能の活用
競争原理の導入、公営企業の民営化、民間委託など。
同市では、平成18年度に指定管理者制度を導入するとともに、PFI(民間の資金、経営能力、技術能力を活用して公共施設等の建設、維持管理を行なう手法)事業の導入検討を始めた。
(5)簡素な組織編制
迅速な意思決定ができるように現場に権限を委譲して、組織を簡素化。同市では、業務体系の整理見直しを行なうとともに、組織のフラット化(平板化・簡素化)を実施した。

さて、奥州市では、このほど、民間委員からなる行財政改革推進委員会の審議を経て、「奥州市行財政改革大綱」をまとめた。

平成18年度から22年度までの5年間で、約74億円の財源を行革努力によって生み出そうとしている。もっとも、このうち約41億円は、市町村合併協議時点で折込済みのものである。

この大綱の中では、「『行政は、最大のサービス産業である』といわれており、行政は市民を顧客とするサービス事業者ですが、今まで行政を経営体としてとらえる視点が少なく、NPMの導入がなされてきませんでした。そのため、効率的で健全な行政経営を進めるための基本的な考え方や市民満足度の向上に関する意識が弱く、職員の意識改革や制度改革が進んでいませんでした。

このような中で、NPMを取り入れた”経営”という考え方により、市民の視点に立った効率的で高品質の市民サービスの提供を目指さなければなりません。」と述べている。

さらに、「改革のための五つの視点」として(1)市民主体、(2)競争原理、(3)成果主義、(4)業務評価、(5)意識改革をあげている。

既に、パブリックコメント制度、指定管理者制度、PFI事業の導入をしており、今後、行政評価や市場化テスト(メルマガ第17号参照)に早期に取り組むことになる。

それにしても、最後の到達すべきフィールドは、「意識改革の庭」のような気がする。いかに優れた組織やシステムを用意しても、人と心が備わらなければ、真の成果は、期しがたい。

今年のNHK大河ドラマ「風林火山」に登場する信玄公の言葉と伝えられる「人は石垣、人は城」が、ここでも思い起こされる。

冒頭に「初雀」という新年の季語を使った句を述べましたが、私の駄句には、雀を扱ったものが幾つかありますので、著名俳人の句とともに、ご披露いたします。

廂(ひさし)より 垂れたる松の 初雀  富安風生

放談の ように聞こえて 初雀     江山(こうざん:小園亭主の俳号)
追いついて 二羽となりけり 寒雀   江山

今、キャンディーズの「春一番」のメロディが流れています。春の明るい日差しのように、元気でご活躍されますようお祈りいたします。

小園亭主 敬白

第24号

拝啓 大晦日の日にお届けしても、果たして何時読んでいただけるのかと心配しながら認(したた)めておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
メルマガ第24号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第24号(H18.12.31)
役柄になり切る

名詞サイズの記録カード

私は、昭和60年に東京都内にある自治大学校に半年間、研修のため派遣されていたことがある(当時、県教育委員会県立学校課管理主事。37才)が、同校の教官の一人が様々な情報をカードに記録しているのを見て、自分も真似て見ることにした。
以来、名詞サイズのカードに千枚以上は記録している。
その中に、「役柄になり切る」というタイトルのもの(S62.1.30記載)があり、「地方経営の時代」という本の中の対談で、平松大分県知事が次のように話している。
「そのときどきの役柄になりきっているからこそ、そう言えるのでしょうね。それは俳優だけでなく、誰にでも言えることだと思います。ある日本を代表する企業の社長をしている人の話ですが、なろうとして社長になったのではない、経理部門にいた時は経理の専門家に、販売部門の時は販売のエキスパートになった。そして気がついたら社長に押されていたと。与えられた役に懸命に取り組むことが、何より大事なことだと思いますね。」

二つ目に、「出向社員」(S62.2.16記載のカードの表題)を紹介する。
これは、同日付の朝日新聞に載っていた元松下電器産業社長山下俊彦氏の話しである。ちなみに、同氏は、子会社への出向を経て松下電器産業本社に復帰し、昭和52年先輩役員24人を飛び越し、取締役から社長に就任し、61年から相談役となった人物である。話しの内容は、次のとおり。
「私の場合は、34才で松下電子工業に出向、43才でフラッシュメーカーのウエスト電気に出ました。まあ、端っこのそのまた端っこの会社でした。当然行きっきりだと思ってました。(中略)後になると、どんなことでもいい経験です。人のタイプには二通りあるなあと最近よく思います。
明るいところがいっぱいあるのに、わずかに残った暗い面ばかり見ている人と、どんな暗い中にあっても、かすかな光を求めようとする人です。暗い面ばかり見てしまう人は、どうも仕事もうまく行かんように思う。人間は、悲しいから泣くのだけれども、泣くから一層悲しくなるという面があるんですね。どんな環境にたたき込まれても、その中でやりがいを見つけていくという姿勢が必要なのと違いますか。」

三つ目に、「朱元璋(明の太祖 1328-98)の能力」(S61.8.31記載のカードの表題)から。
「朱元璋は、自分の地位と立場に応じて、常に最適の人材として振舞った。紅軍の一兵士の時には、最良の兵士として、小隊長になると最良の小隊長に、自立して万の兵を指揮すると最良の軍事指揮官として。
つまり、この人は、下級社員としても、課長としても、中小企業の経営者としても、巨大企業のトップとしても最高の能力を持っていた。(堺屋太一編ー超巨人・明の太祖・朱元璋ー)」

最後に、来年生誕150年プレイベントを迎える郷土の偉人、齋藤實(1858-1936海軍大臣、総理大臣を歴任)の言葉を伝えよう。
これは、本年5月に菅原昭平氏が著した「明鏡止水の人 郷古潔」の中に見える。奥州市水沢区出身の郷古潔(ごうこきよし 1882-1961)は、三菱重工業初代社長などを歴任し、「財界のご意見番」、「三菱の大御所」と呼ばれた人物であるが、明治41年に東京帝国大学法律学科を卒業して三菱合資会社に入社した。しかし、翌年、筑豊にある鯰田(なまずだ)炭鉱に転勤を命ぜられた。
これに失望した郷古は、師と仰ぐ齋藤實(当時海軍大臣)に相談したが、逆に齋藤からの激励を受けて、この道一筋を決めた。
この時の齋藤實の言葉は、記載されていないが、上記カード(S62.9.13記載)「齋藤海軍大臣の言葉」から察することができる。ただし、この場合、齋藤が諭した相手は、別人物である。
「将来海軍に勤務する場合、大臣の命令によって動くのであるから、自分の希望するがごとき艦船や官庁において勤務する訳にはいかない。時には小艦艇や僻地において勤務を命ぜられることもあり得るだろうが、一旦命ぜられた以上は、如何なるところでも不平不満を言わず、欣然として勤務し、最善を尽くし、上官の信任を得るように努め、あの軍医は本当に有能な軍医と評判を得るならば、将来の栄達に期して待つべきであろうから、この点を篤と心得て御奉公するようにと諭された。」

穏やかな年末風景

以上の四つの話しは、「役柄になり切る」のテーマの下にまとまったでしょうか。多少の凸凹は、お許しいただいて、少しでも何かのヒントになれば幸いです。

今年は何時になく心静かな年末となりました。どうぞよいお年をお迎えください。

小園亭主 敬白

第23号

拝啓 デパートなどでクリスマスツリーを見るにつけ、今年も残り僅かという感慨を覚えておりますが、いかがお過ごしですか。
メルマガ第23号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第23号(H18.11.30)
自 治 基 本 条 例

今回は、私の市長選マニフェスト政策2を取り上げたいと思います。
政策2 自治基本条例の制定
[目標]自治体運営の基本を議会と協議のうえ、条例の形で市民に明らかにし、約束します。
[方法]重要課題について、あらかじめ市民の意見を聞く仕組みや特別の案件について市民投票制度を設けることなどを内容とした自治基本条例を制定します。
[期限]2年以内
[財源]500千円(検討会議経費など)

本年11月5日付けの地元IN新聞(胆江地域)の一面トップに「奥州市の自治基本条例ー制定へ作業グループ設置ー素案作りの市民公募」という見出しが躍った。
記事には、「自治基本条例は、市民と行政が一体となって進めるまちづくりに向けたルールで、ワーキンググループでは、公募による市民と市職員が、まちづくりの基本理念や行政・市民の責務、市民参画・協働などについて検討しながら、共に条例の素案作りを行う。同市では20年3月の条例制定を目指している。」とある。

2000年12月22日、北海道ニセコ町で、全国初となる自治基本条例(同町での正式名称は、「まちづくり基本条例」)が制定された。以来、全国の意欲的な市町村が次々と続いている。
ニセコ町の条例では、情報共有の原則、行政の説明責任、町の仕事の企画立案・実施・評価の各過程における町民参加の保障、町民投票制度などについて定めている。
この条例が成立した際、逢坂(おおさか)誠二町長(現民主党北海道比例区衆議院議員)は、「この条例では、特別なことをうたっている訳ではありません。ニセコ町のこれまでの実践を背景として当たり前のことを当たり前に考えた結果の条例です。しかし、この当たり前が必ずしも容易ではないのが、現在の行政の問題でもあります。」と述べている。
果たして、コロンブスのタマゴであったのであろうか。いずれにしても全国に衝撃を与え、大きな目標を示す結果となった。

ところで、自治基本条例の中でも注目度が高いと思われる「住民投票制度」であるが、自治体によって内容は大きく異なる。
まず、誰が発議できるかについては、ニセコ町や大阪府伊丹市のように首長のみとするものと福島県会津坂下町や東京都多摩市のように住民や議会にも発議を認めるものとに別れる。

また、どのような場合に実施できるかについては、ニセコ町や静岡県静岡市のようにそのつど特別な条例を定めておこなうものと埼玉県鳩山町や大阪府岸和田市のように投票制度をいわば常設しているところとがある。
さらに、住民投票の結果に対して、直ちに拘束され、そのとおり実施しなければならないもの(拘束型ー事例調査中)とその結果を尊重して総合的に判断するとするもの(諮問型ー大阪府岸和田市ほか)とがある。

このように見てくると、市民の関心の高い論点が数多く含まれていることが分かる。奥州市においても十分論議を尽くし、市民との協働の精神で取り組まなければならないと思う。

少し肩が凝ったかも知れませんので、サラリーマン川柳傑作選から幾つかお届けします。

講演会よく寝た人ほど拍手する (小春日和さん)
ケンカしてわかった妻の記憶力 (機関銃さん)

句意を味わいつつ、一層のご健勝をお祈りいたします。

小園亭主 敬白

第22号

拝啓 「菊咲けり陶淵明の菊咲けり(山口青邨)」の句が思い起こされるような眼下の景色を眺めておりますが、お変わりありませんか。
メルマガ第22号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第22号(H18.10.30)
油 断

10月23日は、24節気の一つ「霜降(そうこう)」であり、実際に寒かった。
今年初めて石油ストーブを焚こうと思い、ポリタンクの石油を入れようとして、電池式の注入器具のスイッチを入れたが、全く動かなかった。電池切れと分かったが、そのサイズの電池はなく、やむを得ず寒さを我慢することにした。
油が切れた訳ではないものの、ふと「油断」ということが思い浮かんだ。
昭和50年に堺屋太一が石油ショックをテーマに著した小説「油断!(昭和50年日本経済新聞社)」の巻頭に、古代インドの書「ラーマーヤナ」の文が紹介されている。
「 過ぎたる自信と傲慢の故に  持てる油を失い  その首を断たれた者があった  古の賢人は これを油断と呼んで  後の世の戒めとした 」
今回は、「油断」にかかわる歴史上の出来事を、私の自由な解釈の下にお届けしたいと思う。

まず、トップバッターは、織田信長と今川義元の桶狭間の戦いである。
山岡荘八の「織田信長(昭和57年講談社)」によって、見てみよう。1560年(永禄3年)5月19日の昼過ぎ、尾張の桶狭間で地元民の差し出す酒肴により、5千人の兵とともに昼食休憩をしていた今川義元が、服部小平太の一番槍に左腿を突き刺され、毛利新介に首を落とされて戦死(享年42才)した。
この時、信長は田楽ヶ窪と呼ばれる小さな窪みで身動きがとれなくなっているような5千の今川勢にわずか1千の兵で奇襲をかけたのであった。
もともとの総兵力は、4万対4千であり、絶対に負けるはずのない義元軍であった。事実、この日早朝からの闘いで、織田方の城を次々と落とし、義元はその朗報を噛み締めつつ、用心深く、大高城に入る寸前であった。しかし、あまりの敵のふがいなさと勝利の知らせの連続に、つい「油断」したのであった。

次は、同じ信長が朝倉義景を攻めながら、逆に浅井長政の変心により、浅井・朝倉両軍の挟み撃ちに会い、敗死寸前の危機に見舞われた事件のことである。
1570年(元亀元年)4月28日、越前の敦賀郡に侵入し、金ヶ崎城も落とし、連戦連勝で破竹の勢いで進んでいた時である。小谷城から浅井長政の使者として小野木土佐が訪れ、織田と決別し、朝倉側に付く旨通告した。浅井・朝倉の挟み撃ちに会う形となり、桶狭間以来の絶対絶命のピンチである。
「お市の良人、義弟と思うて信ずべからざるものを信じてしまった。37才にしてこの信長は、ついに九仞(きゅうじん)の功をいっきに欠き、越前の地に屍を晒して笑われなければならない運命を掴み取ってしまったのか。」と大いに悔やんだ。この後の神速ともいえる果断な撤退により、九死に一生を得たものの、日本の歴史を変えかねない信長の「油断」であった。
ただし、私は一方では、先の見通しの甘さの下に、作戦の迅速・徹底(詰め)を欠いた浅井長政のいわば「油断」を思わざるを得ない。

最後は、近年の第四次中東戦争から見てみたい。野中郁次郎ほか共著の「戦略の本質(平成17年日本経済新聞社)」によって述べる。
1973年10月6日午後2時、サダト大統領の指導するエジプト軍は、宿敵イスラエルに対し、スエズ運河渡河作戦を決行した(シリア軍もゴラン高原から同時に進攻)。エジプト軍は、まず、空軍による先制攻撃により、シナイ半島西岸に展開するイスラエル空軍の前進基地を一時的に使用不能の状態にし、砲兵戦力の約40%を撃破した。攻撃開始15分後には、スエズ運河の渡河を開始し、6時間後に8万人の渡河を完了させたが、これは、イスラエル軍の予測を2倍から4倍上回るスピードであり、同軍は全く不意を突かれた形となった。
わずか6年前の1967年の第三次中東戦争(6日戦争)において、圧倒的優勢を実証したイスラエル空軍であるが、緒戦の24時間で地対空誘導ミサイルと在来型高射火砲で構成したエジプト軍の新しい対空戦闘システムにより、24時間のうちに34機を失い、同空軍の前線進出が困難となった。
また、絶対優勢を誇るイスラエル機甲部隊(戦車部隊)も対戦車誘導ミサイルを装備した新タイプのエジプト軍歩兵部隊によって、イスラエル軍第190機甲旅団などは3分間のうちに110両中85両が撃破されるといった具合に、たちまちにして壊滅した。
この戦いは、エジプト軍の勝利となり、やがてサダトは、アメリカの仲介のもと、エジプト・イスラエル平和条約の締結、シナイ半島全面返還を勝ち取ることになる。
軍事的側面から述べることになるが、この敗因は、過去の勝利体験に酔ったイスラエル軍の過信と驕慢、すなわち「油断」であった。

私の好きな囲碁の世界では、「最後に悪手(敗戦を招くような手)を放った方が負ける。」とも言う。
「悪手」は、いわば「油断」でもある。互いに「油断」の連続でもあるが、もう挽回のきかない最終局面での「油断」が決定的なものになるといった意味であろう。
「油断」は、影のように付きまとうものではあるが、改めて、「各々方、ご油断めさるな ! 」。

立冬も間近、くれぐれもご自愛願います。

小園亭主 敬白

第21号

拝啓 今まで平穏であった黄金色の水田に、まるでアテルイの軍団の如く、突如としてホニオ(稲架)の列が二重三重に林立していますが、お変わりありませんか。
メルマガ第21号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第21号(H18.9.30)
地 域 通 貨

ホニオ(稲架)

市町村合併論議の際、「避けて通れない問題」という言い回しがよく使われたが、この地域通貨論議にも当てはまりそうな気がする。
この9月定例市議会において、佐藤邦夫議員が一般質問の形で取り上げた。
「奥州市において地域通貨について研究しながら、導入を視野に入れたプロジェクトの立ち上げを提案するが、市長の考えはどうか。」という要旨である。
「地域通貨の目的として、相互扶助、経済活性化の2種があるが、行政や市場からのサービス以外の眠っている社会資源を掘り起こし、活用できる意義がある。全国で300あまりの団体が試みているが、成功事例はなく、まだどこも実験段階である。神奈川県大和市のように、市が積極的に関与して進めてみる考えはないか。」
これに対して、「今年度策定する総合計画に位置づけながら、今後、庁内での検討に着手し、実施主体を含めて、有効な地域活性化策として取り組んでまいります。」旨答弁した。

ところで、地域通貨とは何か。
日本円や米ドルなどの法定通貨と違って、「市民の手で作ることができる。」、「限られた地域でしか使えない。」、「利子はつかない。」等と説明されている。

地域通貨の大きなメリットとして、地域に購買力を根付かせ、地域の活性化に役立つという点が上げられる。
たとえば、奥州市だけで通用する地域通貨を手に入れた人は、奥州市内の店でこの通貨を使うので、市内の商業が栄えることに役立つと考えられる。
このほかにも、「新たな人間関係が生まれる。」、「自分の知らなかった可能性を発見できる。」、「子育て経験豊富な老人の知恵やパソコンを使える若い人の知恵など余剰労働力が活用できる。」といった利点も挙げられている。

岩手県内の事例をみると、盛岡市内のシネマストリートプロジェクト(通貨C)、遠野市内のNPO法人遠野山・里・暮らしネットワークの取り組み(通貨カッパ)、釜石市内の釜石ポイントカード会の取り組み(通貨釜ドル)など幾つか見られるが、規模も小さく、まだまだ試行段階にある。
地域全体がその意義・価値を認識し、そのコンセンサスの下、ごく自然な形で普及しないと、長続きするのが難しいようである。中心となる事業主体が弱体なことも原因の一つとみられる。

こうした中、地方自治体が主体となって取り組んでいる事例もある。
神奈川県大和市(人口222千人)では、2002年4月から市民電子カード(ICカード)事業のひとつとして、地域通貨「ラブス(注:個々には1ラブ、2ラブと呼称)」をスタートさせた。経済産業省のモデル事業でもある。
「ラブス」は、ボランティア活動への参加や不用品交換の対価、市内の商店での買い物特典などに使われ、個人のパソコンや市内に設置されたICカード専用端末機でやり取りされる。
このICカードを持つ市民は、全市民の4割にあたる約9万人に達したが、利用の実態は、行政サービスに関してのものがほとんどで、「ラブス」の2003年4月から12月までの利用は、約600件に留まった。
再検討の結果、「毎年末に各人の残高を1万ラブにリセットする方式を改めて、貯める楽しみを持たせる」、「客から受け取ったラブが貯まる一方で、使う場がないという協力商店からの不満に応えて、自治体広告の利用料金として活用できることとする」などの改善を加えて、2003年12月に再スタートした。

住民基本台帳カードの普及が県内トップグループの当市では、この8月から、カードの提示により、協力事業所での「お得な割引や特典」を受けることができるサービスを開始しているが、こうした大和市の先進的な取り組みは、大いに参考となる。

市民との協働で積極的に知恵と汗を出し、新しいことにオリジナリティあふれる方法でチャレンジすることが大切であるが、その一環として地域通貨にも取り組んでみてはどうだろうか。

深まる秋に、物思いにふけりつつ、西行法師(1118-1190)の歌をお届けします。

こころなき 身にもあはれは しられけり
鴫たつ沢の 秋の夕暮

いよいよクールビズともお別れです。時節柄くれぐれもご自愛願います。

小園亭主 敬白

第20号

拝啓 残暑お見舞い申し上げます。処暑も過ぎ、開けた窓から虫の音とともに秋の気配が忍び寄るこのごろですが、お変わりありませんか。
メルマガ第20号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第20号(H18.8.30)
サ マ ー タ イ ム

四葉のクローバー
(金ヶ崎町阿部実氏提供)

8月12日の地元新聞に「奥州サマータイム終了」の見出しが躍った。
奥州市の水沢青年会議所(石川悦哉理事長)等で組織する準備委員会が、6月21日から8月11日まで導入実験していた、勤務時間帯を1時間早める「奥州サマータイム」が終了した。
企業52社、約380人が参加したが、導入の期間は、企業によって異なり、最長で1週間であった。
ところで、サマータイムとは、夏の間の日の長い期間に、時計を1時間ないし2時間進めて昼の時間を長くする制度である。
欧米を中心に世界の約80ヶ国で実施されている。長くなった時間で余暇を楽しむことができ、照明や冷房の省エネルギー対策としても期待されている。
日本でも、サマータイムが導入されたことがある。戦後の1948年、GHQ指令により「夏時間法」が制定され、同年5月から4年間続いたが、反対の声が多く、廃止された。

しかし、近年また地球温暖化対策の一環として、サマータイムの導入が再検討されてきている。国内では、1例のみで、平成14年度から札幌商工会議所の主導の下実施されている。札幌の夏季における日中時間が、東京や大阪などに比べ約1時間長く、日本全体のなかでも最も夏時間導入に適した自然環境を有しているという認識がある。

札幌商工会議所で平成15年9月、サマータイム導入の経済効果について試算したところ、観光・レジャー・趣味娯楽などに関し、直接効果で約9百億円(2時間で試算)、さらに波及効果を含めると1千百億円を超える新たな消費行動が誘発されるとの結果が出た。なお、これに伴うコンピュータ関連及び様々なシステム変更の費用が積算されたが、約41億円であった。

サマータイム導入の効果としては、前述したことのほか、交通事故、犯罪の防止・減少、子育てと仕事が両立できる環境づくりという意味における少子化対策効果などが期待されている。
一方では、「サマータイムは、企業社会に際限のない長時間労働をもたらすだけである。」文藝春秋編「日本の論点」の中の一つ意見)との論もある。

ところで、我らがJC(青年会議所)の試行結果は、どうであったろうか。
「家族と一緒にいる時間が増え、外食やショッピングに行けた」などの成果が上がったとする声があった一方で、「1時間早く帰宅しても妻や子は、家にいないので特に変化は、なかった。」、「従業員が早く帰った分、経営者が遅くまで仕事をしていた。」、「建設会社などでは、下請会社が実施していないため、作業開始時間が合わなかった。」などの課題が出された。

こうしてみると、家族や取引先、さらには、行政、学校・幼稚園・保育所など広範な機関・団体や人々の理解と協力が重要とわかる。
是非みんなで参加・協力したいものである。

JCの石川理事長は、「来年も継続試行し、今度は、奥州市の全地区で行いたい。とにかくやってみることが大事。やらないより何倍も素晴らしい。」と述べている。
私は、明治維新における青年の活躍にイメージを重ねながら、このような若い世代の行動力に大いに期待を寄せ、拍手をおくるものである。

秋風といえば、学生の頃から好きな次の和歌があります。

君待つと わが恋ひをれば わが屋戸(やど)の
すだれ動かし 秋の風吹く    額田 王 (ぬかたのおほきみ:万葉の女流歌人)

思わぬ風邪など召されませんよう、くれぐれもご自愛願います。

小園亭主 敬白

第19号

拝啓 なかなか明けない梅雨に、農作物の生育が心配になりながらも、雨中に煙るノウゼンカズラの花に見とれておりますが、いかがお過ごしですか。
メルマガ第19号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第19号(H18.7.31)
瑞々しい感性の持続

ノウゼンカズラ

市長選後に再開したメルマガですが、「再び少子化対策(第16号)」、「市場化テスト(第17号)」、「1%条例(第18号)」とハードなものが続きましたので、この辺でソフトタッチなものをお届けします。
最近自宅から市役所までの公用車の中で、本を読むようになった。わずか10分程度であるが、人も電話も来ない中で、落ち着いてしっかりと読書ができる貴重な時間となっている。

これは、帰りも同様で、この場合は、ルームライトで「蛍の光、窓の雪」よろしく活字を追っている。かって、岩手県庁にバス通勤している時代もこうしたことが「得意」であった。「バス内読書」だけで月1冊はこなせたものである。なお、「乗り物酔い」には一切無縁である。
という訳で、だいぶ前に購入し、「積ん読(本棚に積むだけ)」となっていた「プロジェクトX リーダーたちの言葉(今井彰著:文藝春秋社)」を読んだ。

2003年3月、米国の自動車技術者協会は、20世紀に開発された全世界の自動車の中から、11台の「20世紀の優秀技術車」を選出したが、日本からは、ただ1台、ホンダ・シビックCVCCが選ばれた。アメリカの巨大自動車メーカー、ビック3が達成不可能と恐れた米国の改正大気汚染清浄法(マスキー法)を世界で始めてクリアした車である。
この車の開発の陰には、神様といわれた名社長・本田宗一郎と若手のリーダー久米是志(ただし。後に社長)を中心とする技術者達の熾烈な闘いの日々があった。昭和四十年代の話である。
社長の本田宗一郎は、還暦が近づいてなお、現場で油にまみれて陣頭指揮をとり、「東名で百台抜ける車を作れ!」とスピードにこだわり続けた。
しかし、日本でも公害問題が吹き荒れ、光化学スモッグが子供たちを襲った。「どうすれば有害な排気ガスを少なくできるのか。」との思いを抱いた若手は、宗一郎と衝突。”神様”は、”偉大なる敵”とすらいわれた。どちらも苦しんだ。

昭和47年3月、久米は、宗一郎に一切相談せず、会社から遠く離れた浜松市内の旅館に実働部隊のリーダー4人を密かに集め、告げた。「今年中に、何としても車を完成させてアメリカ環境保護庁に持ち込み、マスキー法に合格する。」。チーム編成図の中に宗一郎の名は、なかった。

昭和47年の暮れ、アメリカ・ミシガン州の環境保護庁の試験場で、排ガステストに見事合格。世界で始めてマスキー法をクリアした車の誕生だった。
久米たち若手が作り上げたこの車で、ホンダはそれまでの苦境を脱した。
そして、翌年10月、本田宗一郎は、社長の座から退いた。その挨拶で次のように語った。
「CVCC開発に際して、私は、ビッグ3と並ぶ絶好のチャンスだと言った。その時、若い人たちから自分達は、会社のためではなく、社会のためにやっているのだと反発された。いつの間にか私の発想は、企業本位に立ったものになってしまっていた。若いということは、何と素晴らしいことか。皆がどんどん育ってきている。」

偉大な実績を誇った巨人、本田宗一郎もいつの間にか、”瑞々しい感性の持続”が困難になっていたのであろうか。もう一つ、まったく別の事例を挙げる。

今月28日付けの岩手日報夕刊に「白バイ男衝撃色あせず」という記事が載った。元警視庁鑑識課指紋係の塚本宇兵(「指紋の神様」と呼ばれた)の話である。

1968年12月10日、東京都府中市で3億円強奪事件が発生した。午前9時20分ごろ、雨が降りしきる府中刑務所の路上で、日本信託銀行の現金輸送車に、白バイ警官を装った若い男が近づき停止を命じた。「この車には爆弾が仕掛けてある。調べたい。」。行員ら4人を降ろして車の下を覗き込み、発炎筒をたいて気をそらしたすきに車ごと奪った。

迷走が続く捜査本部で偽白バイの燃料タンクに残された一つの指紋をめぐる一幕があった。
塚本が「犯人がペンキを塗る際に付いた可能性が高い。この指紋に絞って照合するべきです。」と進言したのに対し、現場を指揮していた捜査一課の故平塚八兵衛は、「犯人が塗るのを見ていたのか。」とあっさり却下した。この平塚は、戦後最大の誘拐事件といわれた吉展ちゃん事件の犯人を自供に追い込んだ名刑事であった。
鑑識課には毎日百人、二百人分の「疑いのある人物」の指紋が寄せられ、さばききれないほどの膨大な作業になっていった。1975年12月10日午前零時、3億円事件の公訴時効が完成した。

私は、ここでも平塚名刑事の”感性の瑞々しさ”の喪失を思わざるを得なかった。

ガクアジサイ

武田信玄公遺訓に「およそ軍(いくさ)に勝つは、五分を以って上とし、七分を以って中とし、十分を以って下となす。その故は、五分は励みを生じ、七分は怠りを生じ、十分は驕りを生ずるが故、たとえ軍に十分の勝ちを得るとも、驕りを生ずれば、次には必ず敗れるものなり。 すべて戦いに限らず、世の中のことこの心掛け肝要なり。」とある。

“瑞々しい感性の持続”は、長い一生の中で至難の業である。しかし、心掛けるべきであろう。

ようやく姿を見せ始めたトンボ(蜻蛉)は、あたかも斥候が地上を窺っているようである。

大空にとどまってをる蜻蛉かな   高浜虚子

残暑厳しき折、くれぐれもご自愛願います。

小園亭主 敬白

第18号

拝啓 梅雨明け前の畑にジャガイモやえんどうの花が、庭にはあやめや紫陽花が美しい季節となりましたが、いかがお過ごしですか。
メルマガ第18号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第18号(H18.6.30)
1 % 条 例

えんどうの花

今回は、私の市長選マニフェスト政策20を取り上げたいと思います。
政策20 いわゆる「1%条例」の奥州市版としての「0.4 (オーシュウ) %条例」の制定

[目標] 市民が、税の使途に直接参画することにより、納税者としての意識や市政参加意識を高める。
[方法] 市民税の0.4%分(約12百万円)をNPOなどの市民活動の支援に充てることとし、市民が事業の内容を投票(郵送や電話、インターネットなど)で決めることを条例化します。
[期限] 2年以内に条例制定
[財源] 制定に関しては、とくになし。1%分の財源の捻出については、既存の事業をスクラップ(新事業に振り替える)して生み出すものとします。

いわゆる「1%条例」のもともとの制度は、「パーセント法」からきている。

Project Report「日本にやってきたパーセント法ー笹川中欧基金 茶野順子」によると、「パーセント法」は、納税者の意思表示で、所得税の1%ないし2%相当額をみずから指定したNPOなどの公益機関に提供する制度である。1996年に同法が国会を通過したハンガリーを皮切りに、スロバキア、リトアニア、ポーランド、ルーマニアで類似の法律が成立した。
ハンガリーでは、全納税者の3分の1以上がこの制度を利用しており、2003年度に使途指定の対象となった所得税額の総額は、日本円にして54億5000万円に上る。

「パーセント法」は、NPOの台頭が目覚しい反面、資金獲得の道が開けていない国々で注目を集めており、補助金制度と違って、使途に柔軟性があり、ユニークなアイデアと活動で世の中を良くしていこうとする人々に対して、実現の機会を提供できる仕組みであるといわれる。
日本では、千葉県市川市(人口約46万人)が、第1号で、平成17年4月から「市民活動団体支援制度」として立ち上げた。条例の名前は、「市川市納税者が選択する市民活動団体への支援に関する条例」である。

同市のホームページでみると、まずこの制度は、「市民の手による地域づくり」の主体であるボランティア団体やNPOなど、市民の自主的な活動に対して、個人市民税納税者が、支援したい1団体を選び、個人市民税額の1%相当額(団体の事業費の2分の1が上限)を支援できるものである。
但し、団体の運営費は、対象にならない(こうした点は、前述した中欧の例とは異なる。)。
平成18年度の例によると、1月16日から2月10日までの受付期間中に99の団体から応募があり、「市民活動団体支援制度審査会」の審査の結果、98団体が選ばれている(1団体は辞退)。
この98団体の活動(事業)を広報紙とホームページで公表し、4月15日から5月26日の期間中に市民からの「選択届出」を受け付けた。市民は、広報紙に印刷された返信用封書、インターネットにより、あるいは、窓口に出向いて「選択届出」を行う。
市は、届出結果を集計し、支援対象団体を選択した納税者の数、当該納税者の市民税額の1%に相当する額の合計額等を公表し、審査会に諮ったうえで支援金の交付決定を行う。

以上のような仕組みが、納税者意識や行政への参画意識の向上につながることを期待したい。
奥州市なりの取り組みを楽しみにお待ちいただきたい。

あやめ

美しい「あやめ」を見ているうちに、同じあやめ科で水辺に咲く「かきつばた」を詠んだ伊勢物語の歌を思い出した。
「東下り(第九段)」で、「むかし、をとこありけり」の「をとこ(男)」が、「か・き・つ・ば・た」という五つの文字を各句の始めに置いて詠んだものである。

から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思う

(注釈: 唐衣を着慣れたように、慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばるやってきた旅をしみじみと悲しく思う)

句意をしみじみ感じつつ、一層のご健勝をお祈りいたします。

小園亭主 敬白

第17号

拝啓 田植えが終わり、日本列島が水浸し(俳句眼でみて)となっておりますが、いかがお過ごしですか。
メルマガ第17号をお届け致します。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第17号(H18.5.31)
市場化テスト

私の市長選マニフェストでは、政策7として、次のように触れております。

☆ 市場化テストによる民間への業務開放の本格導入

[目標] 市場化テストは、「官」が独占してきた公共サービスを官と民間事業者の競争入札(官民競争入札)にかけ、コストと質の両面で、優れた方に任せる制度ですが、これを積極的に導入し、行政サービスの向上に結び付けます。
[方法]「市場化テスト導入プラン」を策定し、導入を進めます。
[期限] 2年以内
[財源] 特になし

「市場化テスト」は、日本ではまだ馴染みの薄いものであるが、米、英、豪、スウェーデン、ニュージーランドといった国ですでに実施されている。
たとえば、米国では、飛行場経営、上下水道運営、公共輸送システム、統計分析等で、英国では、公共施設運営、道路維持管理、清掃廃棄物収集処理等で、豪州では、公園管理、手数料徴収等で取り組んでおり、これは、国も地方も同様である。

米国インディアナポリスのゴールドスミス市長(1992-99の8年間)が取り組んだ事例を紹介しよう。
同市長は、公共サービスが非効率な原因を「官が事業を行うから」ではなく、「競争がないから」ととらえ、市場化テストを導入した。

小規模な事業から実験的に実施し、空港の運営など大規模なものへも展開した。
市道維持補修(官落札)、下水道料金の徴収事業(民落札)、空港運営業務(民落札)、下水道処理施設運営(民落札)、ごみ収集(官と民がそれぞれ落札)、建物管理(官落札)に導入した。
(注) 官落札とは、官側が経営効率を抜本的に高めた形で入札に参加し、落札したケースである。

ゴールドスミス市長のこの施策の効果として、政権8年間で年平均5千250万ドル(年間予算の約9分の1)の財政負担軽減を達成し、10億ドルのインフラ投資の実施、4回にわたる固定資産税の引き下げ、職員の待遇改善、失業率の低下を実現した。

日本では、「市場化テスト法案」の国会提出(H18.2提出)に先立って、平成17年度から国の事業を対象としてモデル事業を実施している。
ハローワーク関連として、無料就職支援、職業訓練などであり、社会保険関連業務では、国民年金保険料の収納、年金の電話相談などである。

上記の無料就職支事業(キャリア交流プラザの運営)を落札したキャリアバンク(株)の佐藤良雄社長のリポート(パブリックビジネスリポート 2005年11月号)によると、8事業者が応札し、落札金額(契約期間1年)は、4042万5000円であった。
同社長は、「民間企業では、バブル経済が崩壊した後、三つの過剰すなわち過剰債務、過剰設備、過剰雇用を10年以上もかけて整理してきたが、行政機関には競争相手が不在であったために、改革が民間企業に比べて著しく遅れを取るものとなった。

民間企業の「がんばる基準」は、競争相手に勝つということで、非常に明確であるが、行政機関には、競争相手がなく、「がんばる基準」が判らない。しかも、負けることもないので、危機感が薄く、結果的に行政サービスの質の向上とコストの削減が進まなかったと評価されてもやむをえない。」旨述べている。

私は、ゴールドスミス市長が、痛みの伴う改革を成し遂げたばかりでなく、その成果を市民や職員に還元した姿に感銘を受けるとともに、佐藤良雄社長の明快な洞察に深く頷くものである。

自治体が「市場化テスト」を行おうとすると、特に日本の場合、様々な法規制がネックになり、これを解除しない限り、円滑に進めないといわれるが、新しい法制や構造改革特区の活用などにより、まずは、一歩前進したい。

「副県都を目指す奥州市の新しい力となれば」との想いである。

家の周りでは、蛙の合唱が続いている。ふと、斎藤茂吉の次の歌を思い出した。

死に近き母に添い寝のしんしんと遠田のかはず天に聞ゆる

一層のご健勝をお祈りいたします。

小園亭主 敬白

第16号

拝啓 奥州市では、待ちに待った桜が風に揺れながら、愛想を振りまいておりますが、 いかがお過ごしですか。
メルマガの発行が、3カ月余も中断し、お詫び申し上げます。
奥州市長選挙の準備や当選後の対応に追われ、失礼申し上げました。
遅ればせながら、メルマガ第16号をお届け致します。
なお、メルマガは、15号まで、月2回発行して参りましたが、今後月1回の発行(概ね月の後半)となりますことを勝手ながら申し上げ、お許し頂きたいと存じます。

相原正明行政文化小園 メールマガジン第16号(H18.4.28)
再び 少子化対策

この度の市長選挙において、私は、マニフェストを掲げ、その中で、次のように述べました。

☆ 子育て環境ナンバーワン戦略(5つの戦略目標の一つ)

少子化対策は、これから若者の定住を促進し、人口集積を図りながら、新しい地域づくり・都市づくりをする上で、最重要となるものと考えます。
安心して、生み育てられる環境づくりを強化し、″子育てするなら奥州市で″となるよう総合対策を推進します。

◇ 政策14 子育て環境ナンバーワンづくり

[目標] 安心して、生み育てられる環境づくりを強化し、″子育てするなら奥州市で″となるよう総合対策を推進します。
[方法] 幼稚園と保育所の一体的運営、学童保育の対象拡大、第1子よりも第2子、更に第2子よりも第3子を保育料等の面で優遇する制度、病後児保育体制整備、女性の出産・育児にかかわる就業環境の改善など、子育て環境ナンバーワンづくり方針を樹立し、その具体化を図ります。
[期限] 2年以内
[財源] 500千円(18年度検討協議経費)

公約の実行は、市の少子・人口対策室で早速取り組んでおり、早期に具体的成案を得たいと考えている。

こうした中、国政レベルでの論議も、政府・与党が去る3月23日に「少子化対策に関する協議会」を立ち上げるに及んで活発化してきており、マスコミも盛んに論評を始めている。

内容的には、これまで地方自治体や企業に子育て支援の行動計画策定を義務付ける「次世代育成支援対策推進法」を2003年に制定、児童手当や保育所の整備費、企業への助成金を拡充するなどそれなりの手を打ってきたが、少子化に歯止めをかけることはできなかったので、子育て減税(子供の人数により税金を安くする)などが浮上してきている。

先にメルマガ第11号「少子化対策」で紹介したフランスとスウェーデンの例にあるような「年金での優遇措置」もあり得ると思う。

ところで、A新聞社の世論調査によると、結婚や出産・保育への個別支援よりも「子育てしやすい労働環境」が必要だと考える人の割合が最も高かった。

しかし、大半の勤労者が勤める中小企業では子育て支援計画づくりの機運さえ乏しい状態という。
従業員300人以下の企業での計画策定がそもそも義務付けられていないこと、子育て支援は経費増につながると見られていること、企業の行動計画では、男性社員の育休取得者を出すことが必須であるが、2004年度の取得率は、女性の70%に対し、男性は、わずか0.44%という実態にあることなどによる。

また、育休期間中は、育児休業給付金が雇用保険から支給されるが、取得前賃金の40%止まりということで、子育て推進上のネックとなっている。

先日、Tテレビ局による市長インタビュー収録の際、子育て中の女性アナウンサーがつぶやいた「子育てには、意外とお金がかかる。育児休暇期間中の減収を考えると、なかなか次の出産に向かう気になれない。お金を貯めてからでないと難しい気がする。」という言葉が印象的であった。

ここで、A新聞が描く、バラ色の少子化対応社会を紹介しよう。
「すべての会社に2年間の育児休業があり、その間は、収入の9割が保障される。復職後も早めに退社できるなど、育児に配慮した制度がある。保育所は、安く利用でき、質も高く、入所待ちもない。(以下略)」

経済成長の条件は、働き手の数と生産性のアップにあるといわれる。特に人口が減る中で、働き手を確保するには、女性や高齢者など多くの人が働きやすい環境を作る必要がある。

地元I新聞主催の首長対談の際、私は、「これまで都市の住みよさを測る尺度は、下水道整備などの住環境やレジャー施設の有無などであったが、これからは、それらに加えて、子育て環境だと思う。」と述べた。
今後、この思いで、少子化対策を進めたい。

パソコンの上には、今朝手折った一輪の梅の花があり、こちらを見守っているようです。
一層のご健勝をお祈りいたします。

小園亭主 敬白

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