第7夜
 それから数日間は慌しく過ぎ去った。67番の牛がが死んだことに伴う獣医さんの検死や家畜共済組合の調査、牛のオーナーに対する弁明と、牧場長を巻き込んで牧場全体さまざまな用務があった。もっとも私自身は単なる一介のアルバイトということもあり、預託された牛が死んだ現場に深く関わったとはいえ殊更責任を問われることもなかった。いや、牧場の関係者がみんな私を労わり庇ってくれたのかもしれない。今回の事件の責任を一切被って牧場の責任者たちはしばらく頭を痛め、忙しく立ち働いていたようだった。
 この間ただ私の頭の中には、死んでいった67番のことが海藻のようにこびりついて、他のことを考える余裕もなく何日かがただぼんやりと過ぎ去った。

 彼はどうして死んだのか。彼の死にまつわって起こった一連の幽霊事件は、一体何の意味があるのか。

 そして、とうとう私の仕事納めの日が来た。
 1月一杯をもって私は牧場での仕事を終え、解雇された。
 もともとひと冬のつもりのアルバイトだったが、事情があって私の方から2ヶ月で辞めさせてもらうよう頼んだのだった。このことは私の中で予め意思決定されていたことで、今回67番の死んだこととはまったく関係ない。ともあれ晩秋雪が降る頃にここに引越して働き始めて以来、この牧場ではちょうど2ヵ月働いたことになり、それは私に充分すぎるほどの経験をもたらしてくれた。
 
 最期の日の夜回りを終えて、彼女とともに夕食の席についた。仕事は肉体的には辛かったが、精神的な面でいろいろなことに気づかされ、また彼女も無給で牛舎の仕事や雪かきを手伝ってくれたりして、お互いにとっても良い経験と多くの学びをもたらしてくれるものだった。
 ありがとう牛たち! 忘れられない67番。いつか、どこかでまた会えますように。
 感謝と喜びのうちに牧場の夜は更けていった。
(まだ続く)


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